「コックピット日記」は5人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。
Captain 169 着陸時の角度文=尾方 俊之(ボーイング767 機長)
「この飛行機はただいまから降下を開始し、およそ30分後に着陸いたします」。機内で、このようなアナウンスをお聞きになったことがあるかと思います。その後、航空機は最終の着陸態勢に入り、機体はどんどん高度を下げて滑走路へと向かっていきます。体感的には、さぞ急な角度で降下しているのだろう、と思われている方も多いのではないでしょうか。
今回は、着陸の際に、航空機がどのくらいの角度で降下をしているかについてお話しいたします。
航空機が滑走路に向かって降下する時の角度を「進入降下角」といい、実はどの機種でも「3度」が適正となっています。スキー場などの傾斜に比べると、わずかな数字だと感じられる方もいらっしゃるかと思います。しかし、航空機は時速200 キロほどのスピードで、限られた長さの滑走路に着陸をしなければならないため、角度が浅かったり深かったりすると安全でスムーズな着陸が難しくなってしまいます。私たちパイロットにとって、この3度はとても重要なのです。
パイロットは出発前に「TOD(=Top Of Descent)」と呼ばれる、3度の角度で着陸するための降下開始点を確認します。TODは、高度、距離、風によって変わるため、パイロットは、実際のフライト中さまざまな状況に応じて、操縦席にある速度計と昇降計を使い、上空で3度の角度を計算しながら飛行しているのです。
最新のハイテク機になると、3度での降下を確認できるシステムが装備されている機種もあります。しかし、システムだけに頼るのではなく、長年培ってきた経験をもとに、パイロット自身が常に3度を計算して絶えず確認を行っているのです。
そして、滑走路の脇には、3度を確認するための装置が設置されています。これは、精密進入角指示灯「PAPI(パピ)」と呼ばれ、4つのライトで構成されています。パイロットから見て、ライトの色が赤2つ、白2つに見える場合は適正な3度、赤が多い場合は角度が浅く、白が多い場合は角度が深いことを示しています※。次回ご搭乗の際、着陸直前に機内モニターで滑走路の脇にも注目してみてください。「PAPI」をご覧いただけることかと思います。
私たちパイロットは、繊細なコントロールを繰り返しながら、安全な着陸を目指しているのです。
※PAPIはパイロットから視認できるよう設置されています。進入方式や機外カメラの位置によっては、ライトの色が適正と異なる場合がありますが、安全に問題はありませんので安心してご搭乗ください。
日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)