「コックピット日記」は5人の機長が毎月交替で、パイロットに関する話や日常の乗務で出合ったこと、ちょっとした役立つ情報などを、読者の皆さまにお届けするエッセイです。
Captain 170 時差との付き合い方文=椎名 拓(ボーイング777 機長)
読者の皆さま、こんにちは。海外へのご旅行やお仕事の際、色々と計画をしていたにもかかわらず、時差によって予定どおりに過ごせなかった経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、時差との上手な付き合い方についてご紹介します。
私が乗務しているボーイング777 は国内線から長距離国際線まで運航しているため、スケジュールはさまざまな路線で組まれています。通常、北米・欧州路線は2泊4日、ホノルル・東南アジア路線は1泊3日で、ほとんどの場合、到着した日とその翌日の2日間が現地での滞在となります。滞在先ではクルー同士で食事を楽しむこともありますが、時差の調整や、特に復路の乗務が深夜に及ぶ際には、フライトに備えた体調管理に多くの時間を費やしています。
フライト中に集中力を維持しなければならないパイロットにとって、体調管理は重要な仕事の一つです。JAL グループでは、より科学的な根拠に基づき、時差や睡眠に関する正しい知識と対処方法を身につける取り組みも行っています。人間には、ほぼ1日周期で体内環境を変化させる機能(体内時計)が生まれながらにして備わっています。体内時計が刻む周期は、24時間よりもわずかに長く、目の網膜を通して光の強度の情報を受け取り、生活の周期である24時間に微調整しながら対応しています。それには、質の良い睡眠と充分な睡眠時間が欠かせません。滞在先で寝る時には、睡眠の質を上げるために可能な限り明るい光や耳障りな音を遮った環境にすること、携帯電話などの電子機器を遠ざけることなど、さまざまな工夫をしています。コーヒーなどに含まれるカフェインの効果や適切な摂取方法を理解しておくことも大切です。
海外では、朝方に太陽光などの強い光を浴びて、体内リズムを現地時間に同調させることもあります。私は街中を散歩してリフレッシュすることが多く、なかでもマンハッタンの街を自転車で走るのがお気に入りです。また、日ごろから生活リズムを整え、睡眠不足が蓄積しないよう配慮しています。良質な睡眠は明日への活力に繋がります。皆さまも日常生活で心掛けてみてはいかがでしょうか。
しかし、現実は教科書どおりに上手くいくことばかりではありません。そんな時も私たちパイロットは、先人たちの知恵と科学的な根拠に基づいた最も適切と思われる対応を行い、常に体調を万全にしてフライトに臨むよう努めています
日本航空 月刊誌『AGORA』より(2003年から連載中)