南太平洋、オーストラリア大陸の東に位置するバヌアツ共和国。南北約1,200kmに渡って約80の島々が連なっている。真っ白な砂浜と、穏やかな青い海、緑豊かに生い茂る原生林など、手つかずの自然が多く残された美しい島国だ。

 

 島々の半分は火山島である。バヌアツはオーストラリアプレートと太平洋プレートがぶつかる境界線にあり、環太平洋火山帯に含まれるためだ。なかでも、タンナ島のヤスール火山は、現在も活発に活動を続け、「世界で一番火口に近づける火山」として知られている。標高はわずか360mほど。専用車で頂上付近まで行き、火口まで歩いて近づける。人々は噴出する溶岩の柱を目の当たりにするのだ。

 

 大きくぽっかりと空いた火口の淵。暗闇を見下ろせば、赤くたぎるマグマがのぞく。地の底から鳴り響く轟音。大地を揺さぶり、空気を震わせ、真っ赤に燃える溶岩が勢いよく噴出される。噴煙が柱のごとく上り、火山弾が赤い光の軌跡を描く。

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 とてつもなく巨大なエネルギーが解放される噴火の瞬間。それはまさに、圧倒的かつ破壊的な地球の力だ。同時に、噴火が山を作り、滝を作り、湖を作り、豊かな土壌を育んでいく。

 

 今この瞬間にも、ヤスール火山は火口から火を噴いているだろう。破壊と恵み、生命の脆さと強さ。地球が激しく躍動する神秘の営みが、今日も変わらず繰り返されている。

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