北から南へ。冬の訪れを前に、色づく木々の葉が列島を染めてゆく。山の稜線を、高原を、神社の境内を、全国各地でその土地ならではの個性豊かな美しさが人々の心を潤わせる。毎年同じようでいて、決して同じ光景には出合えない。今この一瞬限りの美しさだ。
青森にも紅葉の名所があちこちにある。手つかずの森も山も赤や黄に染まり、豊かな自然を残す青森ならではの風景が楽しめるのだ。十和田市・奥入瀬エリアも名所として知られている。南八甲田連峰、赤倉岳の麓にある蔦温泉一帯。うっそうとしたブナの原生林が広がり、「蔦の七沼」と呼ばれる沼が点在する。7つの沼で最大のものが蔦沼(つたぬま)だ。標高約450mに位置し、周囲1km、面積は約6haほど。例年の紅葉の見頃は10月中旬から下旬となる。湖畔に沿うように板張りの遊歩道が設置され、対岸に広がる美しい風景を眺めることができる。
日の出の時刻、美しさはよりいっそうのものとなる。朝陽がブナの黄色を赤く染め、森が赤色に輝きを放つのだ。そして、色彩美は変化する空の風景とともに水鏡に映り込む。とくに、風のない晴れた日には年に数回ともいわれる絶景に恵まれる。見事な紅葉が、静謐を湛えた水面にくっきりと逆さまに映し出され、実に幻想的なのだ。
柔らかなブドウの若葉で具を包む
ドルマを生んだオスマン帝国時代の居城・トプカプ宮殿
現在、この蔦沼の風景を後世に残すため環境保全の取り組みが始まっている。蔦沼を含む辺り一帯は国立公園に制定されており、さまざまな野鳥が生息する野鳥保護区でもある。貴重な自然を守るため、訪問者が増大する紅葉期の早朝時間帯には事前予約制度を導入。森への入場者数が制限されている。
自然環境を守り、親しみ、慈しむこと。そうしてこそ、私たちは木々の美しい紅葉を目にし続けることができるだろう。秋、眼前に広がるのは、ただただ、幸福でしかない風景だ。
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