トルコ料理に欠かせない赤い調味料「サルチャ」は、完熟したトマトを使ったトマトペースト。旨みを凝縮した発酵調味料で、ディップ、煮込み、スープ、肉や魚のソースにと、あらゆる料理に使われている。日本でたとえるなら、味噌や醤油のように、人々にとって親しみ深く、大切な調味料なのだという。

 

 食料自給率100%以上を誇るトルコ。活気のある生鮮市場では、今が旬の色とりどりの農作物が豊富に手に入る。8月、所狭しと並ぶのは、夏の太陽をたくさん浴びて育ったキュウリやナス、ピーマン、オクラなど。そして、ぴかぴかと輝く真っ赤なトマトだ。

 

 夏の終わりが近づいてトマトが一段と安くなるころ、家庭では恒例のサルチャ作りが始まる。一年分を仕込むため、ぷっくりと熟れたトマトをどっさり、何十kgも買い込むのだ。

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 ざく切りにしたトマトに塩を加え、天日にさらし、発酵させ、さらに煮詰めるなどして、水分を飛ばし、ペースト状にしていく。何十kgものトマトを使うのだから、家のキッチンではとても間に合わない。太陽の下、大きな鍋で煮込み、広げて水分を蒸発させる。濃厚な赤色が、近所のあちこちで広がるその光景は圧巻だ。そう、ひと昔前には、どの家でもサルチャ作りを行っていた。親戚やご近所同士、ワイワイ賑やかに楽しむのが、この時期のお決まりだった。

 

 現代では市販品がたくさん出回り、とくに都会では手作り派は少数。それでも手作りにこだわる人がいるのは、自分好みに仕込んだ自家製の味には変えられないということだろう。

 

 トルコ料理になくてはならないサルチャ。こっくりと美しい赤色が、人々の食生活を支え、心に染み入る豊かな味わいを生み出している。

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