燃えるように赤く色づくイロハモミジや黄金色に輝きを放つイチョウなど、木々が列島を錦秋に染め上げる頃。自然の彩りに圧倒されるこの季節、九州の有明海には海の紅葉と呼ばれる景色が存在するのを知っているだろうか。
佐賀県・東与賀海岸沿い。眼前に広がる「東よか干潟」との間に、絶滅が危惧される塩生植物シチメンソウが群生している。塩生植物とは、塩分の濃い海水などにも耐える珍しい植物のこと。この地は、シチメンソウの国内最大の群生地なのだ。
シチメンソウは冬に芽を出して草丈20〜40cmの高さに育つヒユ科の一年草。生長の過程で色が緑から紅紫色へ鮮やかに変化する。秋を迎えると、生息地として整備されている区画が一斉に色づき、海岸を真っ赤に染める。見頃を迎えるのは例年10月下旬から11月上旬で、それはなんとも不思議な、なんとも美しい赤の光景だ。
中世の趣が残るアレンテージョ地方の町並み
広大な畑で小麦の栽培が行われている
実は2018年、原因不明の大規模な立ち枯れに見舞われる危機があった。佐賀市や地域の人たちが排水対策や土壌の改良など、シチメンソウ再生に向けた環境改善の取り組みを重ね、数年ぶりに復活を遂げたのだという。現在目にできる海の紅葉は、今なお継続される懸命な保全活動のたまものだ。
シチメンソウの根元に目を向ければ、ムツゴロウやトビハゼ、シオマネキといった愛らしく小さな生き物たちの姿がある。この小さな命が生きて育まれる環境にはとてつもなく大きな意味があるだろう。そう、それは明白に、地球の未来と繋がっているのだから。
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