ヨーロッパ大陸の最西端、スペインの隣に位置するポルトガル。国土面積が日本の4分の1という小さな国ながら、豊かな自然と、南北に長い地理的環境が、地域ならではの多様な文化を形成し、今なお息づいている。

 

 ポルトガル料理は日本人に親しみやすいと言われる。国土の西側と南側が大西洋に面しているため、魚介類を使った料理が豊富で、お米もよく食べる。塩とオリーブオイルをベースにしたシンプルな味付けで素材の旨みを引き出す。そうした優しく滋味深い味わいが、きっと日本人の舌に馴染むのだろう。

 

 東南アジアの料理に多く使われる「パクチー」。コリアンダーの名でも知られるこの香草、ヨーロッパではそれほど使われる機会はない。にも関わらず、ポルトガルではさまざまな料理に使われているから、なんとも不思議で面白い。たとえば「アソルダ・アレンテジャーナ」は、パクチーをたっぷり使った、南部アレンテージョ地方の伝統料理。訳すなら「アレンテージョのパン入りスープ」といったところ。生のパクチーとニンニクをすり潰し、塩とオリーブオイルで味付けしたスープに、素朴な田舎パンとポーチドエッグが入るのが通常のレシピ。スープをひたひたに吸ったパンごといただく、どっしりと食べ応えのある「食べるスープ」だ。

中世の趣が残るアレンテージョ地方の町並み

広大な畑で小麦の栽培が行われている

 元々は、かたくなったパンを美味しく食べるために生まれた一品だという。アレンテージョ地方は古くから穀物生産が盛んな地域であり、また、年間を通じて乾燥が続く厳しい気候のため、焼き上がりから時間が経ったパンも大切に料理にアレンジされ、無駄なく味わう習慣が根付いたとされる。貧しい地方ゆえのレシピとも言われているが、シンプルで気取らず美味しい料理だからこそ、広く人々に愛されるのだろう。

 

近年では、質の高いワイン産地としても脚光を浴びているアレンテージョ地方。ワインとの相性も、もちろん間違いなしだ。

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