渡辺 裕希子=文
ワイキキから車で約40分、オアフ島のヘソ(中心)にあたるワヒアワ地区に、ハワイアンが大切に守り続けている岩がある。11世紀から18世紀にかけて、王族女性が出産していた場所とされる「クカニロコ・バースストーン」。周囲にはパイナップル畑が広がり、知らなければ通り過ぎてしまいそうだが、赤土の大地に足を踏み入れると空気が一変し、ここが特別であることを実感する。吹き抜ける風はひんやりと清らか。静寂のなかで、風の音と鳥のさえずりが優しく共鳴する。道の両脇には、出産を見守る王族男性が座ったとされる36個の岩(現在置かれているものは複製)が並び、まるで参道のよう。歩みを進めると、やがて現れるユーカリとヤシの木立。その下に横たわる、大小の岩のひとつが、神聖なるバースストーンだ。かつて、この岩には出産の痛みを和らげるマナ(霊力)があり、産まれた子どもは偉大な力を持つと信じられてきた。当時は、王族以外立ち入ることが許されなかった聖域。目の前に広がる風景に感謝しながら、岩に向かって祈りを捧げる。それだけで心が落ち着き、エネルギーで満たされていくのを感じた。
ハワイの人々は、古来より野山や草木に宿るマナを大切にしてきた。オアフ島には、ほかにも心身を浄化するといわれる「マカプウ・ヒーリングプール」や、“癒やしの海”と呼ばれる「カヴェヘヴェへ」など、マナが強く宿る場所が点在しており、近年はこれらの“パワースポット”をめぐる旅が人気だ。訪れる際には看板に書かれたカプ(ハワイ語でルール、タブーの意味)をよく読み、ハワイアンへの敬意を忘れないように心がけたい。
〔クカニロコ・バースストーン〕2017年以降、バースストーンの周囲は立ち入り禁止となり、岩にふれたり近づいたりすることは禁じられている。“NO PUBLIC ACCESS”の看板と石で作られたサークルの手前から眺めよう。
〔カプ(タブー)〕入り口には注意事項が明記されている。岩に登る、傷つける、お供え物を持ち帰るなどの行為は絶対にNG。敬意を持って静かに過ごそう。