渡辺 裕希子=文

 富士山によく似たアグア山の麓に広がる「アンティグア」は、スペイン統治時代の面影が色濃く残る美しき古都。温暖な気候に恵まれた高原都市であり、コーヒーの産地としても世界にその名を轟かせている。石畳の道には洒落たカフェが並び、緩やかに近代化が進むが、一方で昔から変わらない光景がある。グアテマラ・レインボーと呼ばれる民族衣装を身にまとって街を行き交う、先住民の姿だ。とくに、女性が着用する貫頭衣「ウイピル」は色彩の表情が豊かで、村によって色使いや模様がさまざま。先住民は、民族衣装をひと目見ただけでどの村の出身か分かるという。

 ウイピルは、街の中心にあるメルカド(市場)や、週末に開催されている民芸品市で、先住民から直接購入できる。値段は付いていないが、簡単な英語は通じるので気軽に交渉してみよう。時間をかけて作られた手織りのウイピルは高額なものも多いが、希少な民芸品との出会いは一期一会。手頃なバッグやポーチ、タペストリーなど種類も豊富で、お土産にも喜ばれそうだ。

 アンティグアの西、約80kmのところにある「アティトラン湖」へも足を延ばしたい。湖の周囲には、マヤの伝統や風習を守った暮らしを続ける先住民の村落が点在。ボートで村を巡ると、鳥や花の華やかな刺繍やシンプルな格子模様など、心踊るウイピルとの出会いが待っている。軒先には、昔ながらの後帯機(こうたいばた)でウイピルを織る女性の姿も。誇りとともに代々受け継がれてきた手仕事が彼らの日常を彩り、村を訪れる観光客にも喜びと驚きを与えてくれる。受け継がれる美しき伝統に、いつかまた再会できることを楽しみにしたい。

  • ※写真協力:グアテマラ政府観光庁

〔メルカド〕グアテマラの人口の約半分は先住民。男性の民族衣装姿を見かけることは少なくなったが、女性の多くは今も普段着として着用している。